Eclipse

随想録

20160812 桃太郎以前

むかしむかし、あるところに山と川がありました。まいにち、山は川に洗濯に、川は山にしば刈りに行きました。ある日、山が川で洗濯をしていると、川上から、大きな無が一つ、ドンブラコ、ドンブラコ、と流れてきました。
「おやおや、これはみごとな無だこと。どれどれ、川へのおみやげに持って帰りましょう。」
山はそう言いながら、無を取ろうとしましたが、少しとおくてとどきません。そこで山は、
「void Start( ) { transfrom.position += new Vector3(1.0f ,2.4f ,0.1f ); }」
と歌いながら手をたたきました。すると無はまた、ドンブラコ、ドンブラコ、と言うと、山の前にスッと移動しました。山は無をつかまえると、
「はやく川と二人で分けて食べましょう。」
と言いながら、ニコニコと春になりました。山は無を洗濯物といっしょにたらいに入れて、だいじにだいじにかかえて持ち帰りました。川は夕方になって、山からしばをせおって降りてきました。
「山、ただいま。」
「川、おかえりなさい。待っていましたよ。今日はいいものがありますよ。」
「なんだい、そのいいものとは。」
「これをごらんなさい」
山はそう言いながら、虚空を指さしました。
「これはみごとな無だ、はやく二つに分けて食べよう。」
川はそう言って、無を二つに切ろうとしましたが、むなしく空を切るだけでした。
それからは沈黙がありました。
 
 
山も川も、自分たちの物語に不足があること、そして、自分たちの物語がどこにも進めないことに気づいていました。
しあわせな結末、かなしい結末、びっくりする結末、こわい結末。山と川は、自分たちの物語に不足がなければ、どんな結末をむかえたのだろう、と想像しました。そして、足りないもののために、しずかに涙を流すのでした。
それからまた沈黙がありました。とほうもなく、じゅうぶんに長い沈黙でした。おもむろに無が割れて、力づよい産声とともに、中から小さくてかわいらしい有がとび出しました。
「これは、これは。」
山も川もたいそうおどろいて、こえを出しました。
「わたしたちが、どうにかして有るものがほしい、ほしいと思っていたから、神さまがこの有をさずけて下さった。」
 
山と川は、すべての可能な物語を包含するように、という祈りをこめて、無から生まれたこの有に宇宙〈ユニバース〉と名前をつけました。